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 朝、起きればそこに志朗の姿はなかった。  温もりも消えている。  いたという痕跡すら残っていない。  堪えようとして、堪え切れないものが込み上げてくる。  体を起こしてテーブルの上を見れば、猫のマスコットがついた鍵が置いてあった。  私のものとは色違いのキーホルダー。  一年前は、私の部屋も志朗の遺品の中も、どれほど探しても見つからなかった。  並べて置かれている二つの鍵は、昨晩志朗がここに来た唯一の証なのかもしれない。  それとも、いままで単に私が見落としていただけだったのか。  あの日、志朗は間違いなく鍵を置いていったのだから。  だとすれば、テーブルの上のもう一つの名残はどうやって説明しよう。  手をのばして、冷たいそれに触れてみた。  持ち上げると、中身は少し残っている。  私はあおって一気に缶の中身を飲み干した。  気が抜けきった炭酸は、甘いだけの飲み物になっていた。                      (了)
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