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「ヒトは皆、身体の中に“ヘビ”を飼っているのよ」
教室中が、静まり返った。
それが転校生、天野響子の、シャレにならないご挨拶だった。
「・・・・・・え、ええっと、じゃあ、天野の席はあそこだから……」
担任の先生(男)が気を取り直したようにそう言った。
転校生の席と言えば、空いている席というのが相場だ。
そしてあろうことか、それは私の隣だった。
「よろしくね、水木さん」
・・・・・・私は、彼女から目を逸らした。
お腹の中ぐるぐると、どす黒いものがとぐろを巻いて胃をキツく締め上げた。
しかしそれは、私に限ったことではなかった。
見渡せば、教室中の誰一人として例外ではなく、腹の付近で私と同じものを蠢(うごめ)かせている。
あるものは何かを警戒するように、あるものは獲物を狙うハンターのように、うろうろ、ぐるぐる、時折赤い舌のようなモノをチロチロと覗かせながら、こちらを見ていた。
そう、それはまさしく、ウロコを持たない“ヘビ”だった。
―――気持ち悪い。
『人間は皆、身体の中に“ヘビ”を飼っているのよ』
私には、そんなセリフ、口が裂けても言えやしない。
しかしなるほど。私以外にもそれが「見える」存在がいたのか。それは驚いたな。
…しかし、私が本当に驚いたのはそんな事ではなかった。
私にとって彼女は、ヒトの姿をしたヘビそのものにしか見えなかったのである。
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