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昼休みは狸寝入りで誤魔化す時間だ。去年仲が良かった子も、自分のクラスの子の相手で忙しく、私には構ってくれない。
だから机につっぷして寂しさを紛らわすのだ。
「水木さん、水木さん!」
うるさい! 話しかけるな!
この声はあのヘビ女―――天野響子のものだ。
「水木さん!」
「・・・・・・なあに? 人がせっかく寝てたのに」
嘘である。
昼休みの喧騒の中で眠れるわけがない。
だがこれ以上、この女に付きまとわれるのは耐えられない。
だから起きてやったのだ。
無論、相手の目は見ない。
「あら、ごめんなさい」
ちっとも謝る気がなさそうに、ヘビ女は言った。
「でも、せっかくの昼休みなのだから何かお話しない?」
嫌である。
何のために授業中も今日今までの休み時間もおまえを無視し続けたと思っているのだ。
「隣の席同志になれたのも、きっと何かの縁だと思うし」
それはこの席替えを生徒が「自由」に行ったから必然的に私の隣が空いただけだっつの!
「仲良くしましょうよ!」
ヘビ女の空気の読まぬ発言に、教室中の“ヘビ”が、一斉にこちらを向いた。
とぐろを巻いた黒い霧。その中からチロチロ覗く赤い舌。
深淵のような空洞の目を持つ“ヘビ”達が、じっとこちらを見ていた。
「・・・・・・水木さんって、あの転校生に随分気に入られたのね!」
「変わり者同士、気が合うんじゃない?」
イヤミを言う同級生の腹から、“ヘビ”が噴出した。
“ヘビ”は同級生の身体を一瞬にして飲み、今なお拡散を続けている。
まるで風船の様だ。
黒いモヤの中で、同級生達がケラケラと笑う声だけが、不気味に響いていた。
私の中のどす黒いそれも体積を増し、胃をきつく締め上げた。
―――冗談じゃない! こんなヘビ女と一緒にされるくらいなら、一人でいた方がマシだ!!
「嫌よ。眠いんだから放っておいて!」
ヘビ女にそう告げて、私は再び机に頭を預けた。
胃にまとわりついた重たいそれは、しばらく消えそうになかった―――。
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