ロンドングライン 1

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殺伐とした空気が広がる。 俺と奴を囲んで出来る人だかりは、正直ウザったいが気にしてはいられない。 体育館というある種の戦場に、熱気がこもっていた。 勝負は始まっていないのに、汗が伝う。 睨み合う俺と奴の手には、俺たちの勝敗を賭けた武器が握られていた。 事の始まりは数十分前。 「山下ー、鈴木ー。今日の体育バドミントンだってー」 俺の弁当に入っていた卵焼きの争奪戦の為に、箸を突き合わせていた俺たちの元へクラスメートの八尾(やお)が来た。 昼食後の体育の連絡らしい。 何やってんだこいつら、みたいな顔してたけど今はとりあえずほっとく。 好物たる卵焼きだけは渡せねぇ。 「ほう、バドミントンか」 涼しい顔して鈴木は言うが、攻防を繰り返す箸の手は休めない。 ていうか、何で俺の卵焼き狙うんだよ。 自分の食え、この野郎。 「バドミントンとかいつ以来かなー。中学でやったきりかなー」 間延びした声で言う八尾は、ほえほえした笑顔を浮かべている。 俺たちの近くの席に腰掛けて、実はさっきからいたもう一人のクラスメートに対して首を傾げた。 「サエは?」 先にさっさと飯を済ませ、俺たちの攻防戦を傍観していたサエは「うーん」と腕を組んでみる。 「部活入ってすぐくらいに、先輩たちに歓迎会と称してフルボッコにされた事がある、シャトルで」 「それ、いじめじゃない?」 その前にお前はサッカー部だろうが。 バドミントン関係ねぇし。 「バドミントンはインドネシアやマレーシアの国技だ。球技の中で打球の初速が最も早い事でギネスブックにも認定されている。ちなみにスマッシュの初速は最高で時速400km以上に達する」 俺の箸を弾き、俺に箸を弾かれつつ鈴木はいきなりバドミントンの説明を始めた。 何でんな事知ってんだよ。 「Wikipedia出典 Feペディアモバイルより」 「またそれかっ!!!」 「あ」 思わずツッコミを入れた瞬間、鈴木の箸は俺の箸の横を滑り込み、丁寧な所作で卵焼きをつまんだ。 八尾が声を上げたが、それよりも鈴木が早かった。 瞬く間に黄色いそれは鈴木の口の中へ。 もぐもぐと噛み砕かれ嚥下(えんげ)されてしまう。 俺の卵焼きっ…!! 「これで通算142コ目の黒星だな」 「ある意味凄いよ。142戦中0勝142敗とか」 死ね、お前ら。 .
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