ロンドングライン 1

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「たかんな、お前ら。帰れ!」 人壁を造るクラスメートたちを蹴散らそうとラケットを振り回す。 「何だ、山下。敗北した姿を見られるのが嫌なのか?」 ……………何? 鈴木がラケットのガットを指で弄りながらしれっと言い放った。 そして顔を上げたかと思えば 「いまさら」 はっ、と鼻で笑う。 「潰す」 ひらがな表記が余計ムカつく。 「やってみろ」 そうして俺たちの勝負は始まった。 結局人壁は無くならず、俺たちの周りを囲んでいる。 ていうか授業中じゃねぇのかよ。 じゃんけんでサービスかレシーブかを決めるが、鈴木の勝利によりサーブ権を取られた。 手前にいたサエと八尾が「143戦目は28回目のじゃんけんが先だったね」「負けてるし」とか言ってて腹が立つ。 鈴木、てめぇの144勝目はねぇ。 「2ゲーム先取の3ゲームマッチだ。無様な姿は見せるなよ」 右手にラケット、左手にシャトルを持った鈴木がこちらを見やる。 当たり前だっつーの。 「行くぞ」 スパンッと軽めの音がして、シャトルが飛んできた。 落下地点に先回りし、それを打ち返す。 「よっ!」 少し強めに返せば、やはり優雅に走る鈴木は更に力を加えて返してきた。 「バドミントンの誕生には諸説あるが最も有力なのは、1820年代にインドのプーナで行われていた『プーナ』という皮で出来た球をネット越しにラケットで打ち合う遊びをイギリス人兵士が1873年に本国に伝えたというモノらしい」 また始まった鈴木のうんちくを聞き流しながらシャトルを打つ。 この奇妙な言動には慣れている。 ことあるごとに豆知識を披露する鈴木は我が校の名物だ。 しかもいっつもWikipedia。 「また、英国にはバドルドーアンドシャトルコックという、シャトルコックに似た球を打ち合う遊びが、プーナ伝来より遥かに昔から伝わっていた。その競技の性質や名前などから次第にバドミントンへと変化していったという説も信憑性が高い」 段々と鋭くなる鈴木の打ち返しを俺は何とか拾い、力が無い分、鈴木を左右に走らせる為に敢えて奴とは逆方向に打つ。 でも追い付いてるから腹が立つ。 .
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