ロンドングライン 1

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「日本では1921年に、横浜YMCAの体育主事が名誉主事のアメリカ人、スネード氏から用具一式を寄贈された事が始まりとされている。さて、山下」 高く打ち上げてしまったシャトルをのんびり見上げながら、鈴木は急に俺に話しかけてきた。 さっきまで一人で語ってたくせに。 「同じ1921年に結ばれた条約は何だ?」 小気味良い音と共に、俺に出題する。 ラケットを振り抜いた時には、シャトルは軌道を変えていた。 素早くこっちのコートに返ってくるシャトルと鈴木の出題に俺は一瞬思考が止まる。 「は?!え、あっ…」 何とか頭を起動させながら、返そうとラケットを振った。 が、見事に空振る。 体育館の床にぽて、と情けなく落ちたシャトル。 シーン…としながらも、「あーあ…」というサエの声が聞こえた。 「正解はリガ条約。1921年にポーランドとソビエト連邦の間で結ばれた条約だ」 「知るかっ!!」 「Wikipedia出典 Feペディアモバイルより」 やっぱりか。 てか携帯で調べんな。 パソコン使え、この現代っ子。 「さて、俺が先取点を頂いたワケだが」 鈴木はまたラケットを構え、俺が投げ返したシャトルを指で遊ばせる。 余裕かましやがって。 「この時点でお前の勝利はないな」 ぶっ殺す。 対抗心に火が付いた俺は、ネット越しの鈴木を睨む。 またサエと八尾が「単純…」「熱くなりすぎてもダメだよね」とか言っていた。 その時にはもう次のラリーが始まってて、俺は聞いてなかったが。 スパンッという音がしばらく続き、シャトルはコートを行き来する。 俺と鈴木の額にはうっすらと汗が浮かび、鈴木は色っぽさを増していた。 高2のくせして色気備えんな。 人壁の材料だった女子たちがキャーキャー騒いでる。 鈴木がラケットを振るだけで悲鳴が上がるからたまったもんじゃない。 白熱した試合は数十分続き…―――― 「はい、144敗目ー」 コートに膝を付いてうなだれる俺の姿があった。 .
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