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「やあやあ、和泉(わいずみ)君元気かい?」
「先輩、僕の名前は和泉(いずみ)です。何度言ったら覚えてくれるのですか?」
「まあまあ、気にしない和泉(わいずみ)君。名は体を表すという言葉があるではないか」
「それは僕が間違われやすそうな人だと言いたいんですか?」
「うむうむ、実によくわかっているではないか和泉(わいずみ)君。私はキミのそういう所を高く買っているのだよ」
「高く買って頂けるのはありがたいのですが、その価値は一体幾らぐらいになるのですか?」
「むむむむ、そうだな。カニパン一週間分くらいの価値はあるぞ」
「なんですか、その聞くからにマズそうなパンは?」
「うんうん、よくぞ聞いてくれた和泉(わいずみ)君。聞いてくれ、私がこのカニパンと出合うまでの紆余曲折の物語を」
「いや、カニパンの説明だけでいいんですが」
「それはそれは、辛い物語だった。野良猫の田代四十八五郎と死闘を繰り広げ」
「野良猫に勝手に名付けないで下さい」
「道端で弁当を落として、腹を空かし」
「鞄の中の弁当をどうやって落とすのですか?」
「おお、予鈴だ。では和泉(わいずみ)君また会おう」
「あっ……結局、カニパンってなんだったんだ? カニパンってなんだったんだぁーーーーっ」
結局、これ以上先輩からはカニパンの事を聞けずに彼女は卒業した。
まさか、これが先輩と同じ大学進学への最大の動機なるとは思いもしなかっただろう。
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