賢人の戦い

2/4
19人が本棚に入れています
本棚に追加
/80ページ
 山から吹き下ろす激しい風に身を震わせる。  目の前には荒れ果てた古城がそびえたつ。  ここには神に挑み、破れた賢人が住んでいると聞く。  ある詩人がその顛末を唄っている。  賢人は天を仰ぎ、轟く雷に向かい尋ねる。  ――神よ、そは何を思うのか。  貧しき者は腹を満たせぬ。  悲しむ者は絶えず生まれる。  争いと掠奪の世界を目にして何も思わぬのか。  荒れ狂う稲妻が闇夜を刹那の昼に変える。  ――狂える価値が横行し、安寧の息は身を潜めた。  賢しらが命の価値を語る。  痴れ者が死の意義を説く。  物乞いが生の意味を誇る。  私は安息の地が瓦解する音を聞き、  諸々の高きものが崩壊するのをこの眼で見た。  ――神よ答え給え。  そは平和と幸福を与える存在ではないのか。  しかし、今では言葉で人々を惑わす偽りの存在に成り下がっている。  どうして答えてくれぬのだ、神よ。  賢人は天に向かい声を発し続けたが、  雷鳴が暗黒の空を切り裂くのみで、  到底声など届いてるようには思われなかった。
/80ページ

最初のコメントを投稿しよう!