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山から吹き下ろす激しい風に身を震わせる。
目の前には荒れ果てた古城がそびえたつ。
ここには神に挑み、破れた賢人が住んでいると聞く。
ある詩人がその顛末を唄っている。
賢人は天を仰ぎ、轟く雷に向かい尋ねる。
――神よ、そは何を思うのか。
貧しき者は腹を満たせぬ。
悲しむ者は絶えず生まれる。
争いと掠奪の世界を目にして何も思わぬのか。
荒れ狂う稲妻が闇夜を刹那の昼に変える。
――狂える価値が横行し、安寧の息は身を潜めた。
賢しらが命の価値を語る。
痴れ者が死の意義を説く。
物乞いが生の意味を誇る。
私は安息の地が瓦解する音を聞き、
諸々の高きものが崩壊するのをこの眼で見た。
――神よ答え給え。
そは平和と幸福を与える存在ではないのか。
しかし、今では言葉で人々を惑わす偽りの存在に成り下がっている。
どうして答えてくれぬのだ、神よ。
賢人は天に向かい声を発し続けたが、
雷鳴が暗黒の空を切り裂くのみで、
到底声など届いてるようには思われなかった。
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