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「私はクリント・ウッド。この町の保安官だ」
「宿を借りたい」
ブラックはそう呟いた。ウッドは眉をひそめる。
「宿を借りるのに弾丸はいるのかね」
「チップのつもりだ」
ウッドのギラギラした目がブラックを静かに見つめている。
辺りはまた沈黙した空気に包まれた。
いたたまれない空気の中、ブラックが口を開いた。
「泊めるのか?泊めないのか?」
ウッドはにやっと笑った。
ブラックの目的は例の如く埋蔵金。これまでも何人もの人間が泊まり、旅立ち、死んでいった。
地獄の門番はその様子を止めることなく見続けた。いや、厳密には見ていただけではないのだが―。
ウッドの目にはブラックがただの血迷ったトレジャーハンターにしか見えなかった。
ただ漠然と"地獄の荒野"を歩き回る運命。正確な場所がわからぬまま、乾き死ぬのだ。
悲劇というよりは喜劇。ウッドはそのことに笑いを堪えるのに必死だった。
「いいだろう。泊めてやる。チェリーの宿を使いな。宿はあっちだ」
ブラックは無言のまま立ち去った。
群集もまた、無言で解散し始めた。
保安官も帰ろうとした。帰るはずだった。
村人だれもがそう思った。が、彼は帰らなかった。
ブラックを追っていた。ひっそりと、幽霊らしく。
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