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「あら、いらっしゃい」
チェリーの宿はこの村唯一の宿だ。
女主人のチェリーと、息子のジョニー、祖父のベムで切り盛りしている。
「久しぶりね。お客さんなんて」
「部屋を一室。長い間泊まりたい」
「あら大歓迎」
そういうとほこりのかぶった宿帳を取り出した。ブラックはそんな宿帳に目をやった。
「最後の客が1869年8月か」
「そうよ。1869年8月29日。ペネロペ銃撃戦の日」
ブラックは顔を上げた。チェリーは遠くを見つめながら、タバコに手を伸ばした。
「名高い悪党、ガンマン、アウトローがこのペネロペ村に集まったの。埋蔵金目当てにね。
一触即発の状況だった。空気がピリピリしてたもの。誰が撃ったのかしらないけど、一発の銃声が響いた瞬間村の中で銃撃戦が始まったの」
チェリーはここで一呼吸おいた。チリチリとタバコの燃える音だけが、フロントに聞こえていた。
「まだその頃は私たちの宿の他に4つの宿があったの。宝探しの男たちでいっぱいで、それなりに繁盛してたから。それぞれの宿に悪党が泊まっていて、もう大パニック。
他の宿はみんな灰になったわ。私の夫も、その時死んだ。
それからはこの有り様よ。触らぬ神に祟りなしってわけね」
そう言うとチェリーは少しはにかんでみせた。
ブラックも微笑む。
「それじゃあ俺が2年ぶりの客ってわけかい?」
「ええそうよ。なんか飲む?」
「酒。いただこうかな」
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