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夜になって文覚は少女の家に忍び込んだ。
居間には少女の言葉通り、夫の渡辺渡が寝ているようである。
文覚は家の中が暗い為に手探りで渡辺渡が寝ている場所まで近付く。
そして髪を解いて寝ていだろうと思った渡辺渡の髪に触った。
髪が濡れている…。
「渡…すまぬ」
と声なき言葉を呟くと、手に持った太刀で渡辺渡の首の辺りに振り落とした。
ゴロンっと首と胴が離れる音がしたと思うと、文覚は首を掴んで首の主を確認した。
首の主を確認した文覚は驚きのあまり、全身が固まってしまった。
その首は紛れもなく文覚が一番大切に想っていた少女だった。
少女は文覚と約束をした後、夫の渡辺渡を家から追い出していた。
そして文覚と約束の時間に近付くと湯あみを済ませ、居間で横になりながら手を合わせて待っていたのだ。
「渡様…短い間でしたが幸せでございました」
そう、消えそうな声で呟きながら…。
文覚は少女の首を抱えて走った。
闇夜の中を流れる涙を拭きもせずに。
何処に向かっているのでもなく、走りつづけた。
気が付くと文覚は熊野へ来ていた。
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