プロローグ

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「この、この手にしっかり掴んでおったのに!!」 彼女は先程からの真言を唱える者に対してか、ここまで彼女を追い詰めた首謀者に対してか、呪いを吐くように悶えながら傍らにいる高貴な人物を睨んだ。 高貴な人物は怯えながら、側近に手を伸ばし。 「葛野麻呂、早よう御髪(オグシ)を切ってくれぇ」 と、出家して降参する意志を伝えた。 先程まで邸を包囲していた兵士が乗り込んでくる音が響く中、彼女は周りに火を放ち『おのれー、忘れぬぞ、この怨み忘れぬぞ』と悶え苦しみながら、放った火の中へ飛び込んでいった。 高貴な人物と葛野麻呂と呼ばれた側近は、彼女が炭になっていくまで震える身体をお互いに抱き締め合いながら呆然と見つめていた。
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