表裏

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光は、ゆっくりと目を覚ました。 白い正方形が並ぶ天井が目に入る。 光は、病室と思われるベッドで横になっていた。 どうやら、死んではいないらしい。 病室と思われる部屋は、窓がなく、ドアが一つあるだけだった。 ものといっても、ベッドとその側に棚があるのみである。 「気がついたようだね」 一人の男性が、ドアから入ってきた。 白衣を着こなしているが、その中はTシャツにジーンズを着込んでいた。 医者と呼ぶには、若すぎる感じもした。 「私は、宮田 大輔。脳外科医だ」 脳外科? 宮田は、ペンライトで光の両目を照らした。 眩しい。 「自分の名前は、言えるか?」 宮田は、尋ねた。 「…西野 光…です…」 なかなか声が出なかった。 「そうか、よかった。意識を失う前のことは、覚えているかい?」 光は、考えこんだ。 だが、頭痛がする。 「あぁ、無理に思いださなくてもいい」 宮田は、光を制した。 だが、次の瞬間、光の頭に記憶が 流れ込んできた。 「ほ、歩道橋…。僕は、歩道橋から落ちて…」 「そうだ。君は歩道橋から落ちた。だが、その記憶があるということは、手術は成功したようだ」宮田は、言った。 その顔からは、安堵の様子が伺えた。 しかし、光は不安になった。 脳外科? 記憶を確かめる? まさか。 「先生、鏡ありますか?」 「鏡なら、ここにあるが」 宮田は、ベッドの側にある棚から、鏡を渡した。 光は、すぐさま自分の顔を確認した。 映っているのは、西野光の顔 そのものだった。 「どうかしたのかい?」 宮田は、心配そうに聞いた。 「いえ、脳外科の先生ってことは、自分の脳を他者の身体に移すってこともできると勘違いしまして」 「それは、SFの世界。君は映画の見すぎだな」 宮田は、笑って言った。 「まぁ、その様子なら、1週間で退院できるだろう」 宮田は、そう言って病室を去ろうとした。 「あの…先生」 光は、宮田を引き留めた。 「なんだい?」 宮田が、振り返る。 「僕と一緒に落ちた人は、どうなったんですか?」 「残念だが、彼は亡くなったよ。助かったのは、君だけだ」
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