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もろ脱ぎになった胸板は薄く、踏みしめた素足は細い。つま先は、磚(いしだたみ)の縁を飾る苔へと埋もれ、春夜の冷気で震えていた。
産毛を残した頬に鳥肌がたつ。
曹植(そうしょく)は地を蹴った。
すかさず、手にした鞠を放りなげる。右手に持した剣も投げあげると、刃が空をきって、大仰に光った。着地するやいなや、踊り落ちる鞠へ背を向け、こんどは踵で蹴りあげる。地に落ちる寸前の剣を捉え、また放る。
剣と鞠へ、まるで猿(ましら)のようにじゃれつく。
延延と滑稽を演ずるその姿を、明月が青く彩っていた。宿星はしきりと瞬き、演舞の拍子をとる。池を覆った蓮の葉が風に吹かれ、そそと揺れた。
静寂を破ったのは曹操だった。愛息子の道化がおかしくてたまらぬといった様子で、滅法に両手を打ち鳴らし、腹をよじって笑い転げる。
主が乱れると同時に、あ然となっていた宴席はたちどころに打ち解けた。居並んだ文人たちも、それぞれに笑い声をあげる。ある者は口元をおさえ、またある者はあたりはばからぬ大口をあけ、笑いさんざめく。
高枝の上で小鳥が鳴く。池の魚が踊り跳ねる。
飄風(ひょうふう)が植の衣へまつわって、楽しげに絹をひるがした。
梅が散る。花弁は、月光を宿して白玉のごとく輝く。酒の香。歓声。一拍おくれた楽団が、かしましく音曲を奏ではじめた。散る汗は限りなく透き通って、青玉に似ている。
熟れたように赤くなった頬に、夜風が心地よい。
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