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苦悶を刻んだ丕の眉間が、植は悲しかった。
老翁のごとき深い縦皺の寄った、苦悩と重圧に怏怏(おうおう)としたあの眉間が、弾指の間であれ緩むのならば、自身が滅びることすら厭わないと、植はおもった。
父の意思は絶対であり、詩を詠めと命ぜられた席でこんな道化を演ずるのは、勘当してくれと放言するようなものだ。
しかし、舞台へ進み出た際に、そんなことは微塵も考えなかった。
嗚呼、哥哥(あにうえ)。
ぼくは、哥哥のお心を存じています。こうして詩会が開かれるたび、哥哥がどれほど苦吟なさっているか、深く深く存じています。哥哥は、父上のお心を掴もうと、必死になっていらっしゃるのでしょう。後世に残る詩文を生み出してこそ、曹家の公子たりえると、おもっておいでなのでしょう。そうでなければ生きている意義がないと、おおもいなのでしょう。
植は跳躍した。磚(いしだたみ)に爪は裂け、赤い血がしぶく。飛剣が頬をかすめ、落ちた。血。
植は鞠をも打ちやって、全身を放りだした。つま先から指先まで、持ちえるすべての感覚をもって、かそかに聞こえる丕の息づかいの中へ没入する。
破瓜を拒む生娘のような抵抗をかんじ、植はもがいた。もっと奥へ行きたかった。兄と同体になりたかった。なりふりかまわずもがいた。
ぶつんと大きな音がして、粘膜が破れる。
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