Avocade

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本部前にタクシーを乗り付け、領収書を受け取り表玄関から入ると、先程電話を掛けてきただろう中年の男が出迎えてくれた。 やや生え際が後退した部分を隠す様に側面の髪を中央に持ってきているのが明らかに不自然なのだが、恵比寿顔でそれが中和されている。 男は池波に近付きなから、左手に持った名刺入れから名刺を一枚抜き取ると差し出す。 差し出された名刺には ゛広報課長 峰岸龍太郎゛ と書かれており、自分も胸ポケットを探ったのだがあいにく名刺を忘れてきていた。 軽く自己紹介程度に名前を名乗ると、峰岸は 「取りあえず、ここでは何ですので……。こちらへ……」 と池波を近くの個室に案内した。 個室内は中心に大理石でできた低めのテーブルがあり、それを挟むように三人掛けの黒色ソファが鎮座している。 「こちらでお待ち下さい」 と言うと、峰岸はドアを閉め出て行った。 しばらくして峰岸を含む三人の男が室内に入って来た。 峰岸がテーブルの上に湯のみを置く間に他の二人の男が名刺を池波に差し出す。 右側の額に脂を滲ませている中年太りした男が ゛広報課次長 山下勝゛ と書かれた名刺を差し出し、左側のポマードできっちりと黒髪を固めた白髪の男が ゛県警本部長 橘純太郎゛ と書かれた名刺を差し出した。 池波は数度名刺を見返す。 広報の提案に本部長が一切関しない事はないだろうが、こんな話合いに出てくることは考えられない。 一つ明らかなのは名刺を持ってくるべき事だけだった。
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