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それ以降の書類は契約内容や注意、留意事項ばかりであり、一通り軽く目を通すと池波はトントンと机で書類の角を揃え、机の上に重ねて置いた。
その手で既に湯気も上らない程冷めた湯のみを持ち、温くなった苦味の強い緑茶を口に含む。
橘は机上の書類を手元に引き寄せ、図が描かれたページを開くと胸の万年筆を取り出した。
そして、万年筆でグルグルと゛回答゛という文字を黒丸で囲み、
「もしかしたら……この部分が気になったんじゃないですか?」
と池波に尋ねる。
池波は意識しない内に首を傾げていた。
橘の言葉に疑問に似た何かが心の奥に小さく湧き上がったからである。
それは不審にも疑念にも似た、確かな違和感であった。
手品師は手品のタネから目を逸らす為にわざと対局的な部分に注意を引き付けさせる。
肝心のタネを観客に気付かれないように仕込む為に囮のタネを晒すのだ。
池波の脳裏を掠めたのは、このような相手を囮へと誘導するような違和感であった。
その様な事はもちろん口には出さずに池波は頷いて見せる。
それを待っていた橘は確信したようにウンウンと頷き、口を開いた。
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