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私の声に一瞬肩を揺らし、桐山雅人が私を真っ直ぐに見る。
思わず目をそらすと彼は小さく声を漏らした。
「…まずは…遊里さんに謝らなくてはいけませんね。先日の事、本当に申し訳ありませんでした!謝って済む問題ではないと分かっていますが…本当に…」
「それはもう良いです。それより本題に入って頂けませんか?」
「遊里、その言い方は…」
刺々しい言い方をする私を咎める海斗を睨みつける。
何故この男を庇うのか。
私には海斗が理解できない。
「…母が、入院したんです。」
え…?
な、何?
桐山雅人の発言に呆気にとられてしまった。
今何故彼の母親の話しが出てくるの?
「胃ガンなんです。…放っておけばあと一年と持ちません。手術の成功率は決して低くないんです。だけど手術を受けたがらなくて…」
気にせず続ける桐山雅人の声が震えている。
「母はこのまま死にたいって…だけどっ…だけど僕は…。」
以前会った時の桐山雅人とは、印象が全く違った。
母親を心配する、ごく普通の息子に見える。
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