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それでも立ち上がらない桐山雅人に、唇を噛み締めた。
腰に回された腕を振り払い、二人に背を向ける。
「遊里?」
「あなたが出て行かないなら私が出ていく。」
「おい、遊里!!」
海斗の声を背中に受けながら、応接室を飛び出した。
もうあの空間にすらいたくない。
走って走って、広すぎるくらいの庭に逃げこむ。
息が苦しいのに空気が吸えない。
まるで体が拒否するかのように、ただただ芝生の上で息を吐き出した。
「…奥様…?」
その時、かすかに私を呼ぶ男の人の声が聞こえ、わずかに視線を動かす。
拓海く…ん?
そこには庭師の拓海くんが立っていて、私の様子に気付くと駆け寄ってきた。
「奥様!?…過呼吸だ…袋…なんか袋!!」
慌てたように自分のポケットを探っている。
目の前がかすれてきた時、口元に何かが当てられた。
「大丈夫ですから!ゆっくり息を吸って吐いて下さい!大丈夫…大丈夫です。」
背中を撫でる手が温かい。
次第に息が吸えるようになり、口元に当てられたのがコンビニの袋だと分かった。
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