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小春日和と、いうのだろうか。
風は少し冷たいけど日差しが暖かい。
きっと空は雲一つなく晴れ渡っているんだろう。
だけど今の私に空を見上げる余裕などなかった。
「…そうだったんですか…」
一通り話しを聞いてくれた拓海君が苦しげに呟く。
「俺も…捨てられて施設で育ったから…」
拓海君は私よりも辛い思いをしてきた。
小さな時に両親に捨てられたのだ。
私の話しにうんうんと頷きながら、きっとその時の事を思い出したんだろう。
「俺も…嫌だな…。」
「え?」
「自分を捨てたくせに…新しい家庭でまた子供つくってたなんて…耐えられない。」
いつもは優しい拓海君の声に怒りにも似た感情が混じった。
「旦那様は何を思って遊里さんにその話しを聞かせたんでしょう。俺なら…絶対に聞きたくない話しだ。」
拓海君の言葉に胸が痛む。
そうだ。
私も聞きたくなかったのだ。
海斗があの日私に「母親を恨んでいるか」と聞いた時にハッキリと言えば良かった。
でもあの時は気づいていなかったのだ。
私がこんなに、あの人を恨んでいた事なんて。
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