閉ざされた扉

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お父さんが慣れないなりに一生懸命作ってくれたご飯は、嬉しかったけど美味しくはなかった。 よれよれの洗濯物に、いびつなお弁当。 それでも、お父さんがいつも悲しそうだったから絶対に人前では泣かなかった。 「お父さんこれ美味しいよ」「お父さんありがとう嬉しいよ」って言っていつも精一杯笑ってた。 だけど本当は泣きたかったんだよ。 「どうしてお母さんは出て行ったの?」「どうして私達を置いて行ったの?」「お母さんには遊里達は要らなかったの?」 そう言って泣きたかった。 周りがびっくりするくらい大きな声で叫びたかった。 寂しい、悲しい、苦しい。 辛くて仕方ない感情をどこにやったら良いか分からなかった私を救ってくれたのは、今のお母さんだった。 いつも側に居てくれて、行事には必ず参加して。 帰ったら笑顔で「おかえり」って言ってくれた。 私にはそれが嬉しかった。 自然にお母さんと呼べるようになるまで、それ程時間はかからなかった。 私のお母さんは…今のお母さんだけ。 私を捨てたあの人に今更会いたいなんて思わない。
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