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あの後、器用にも鼻緒を直した男。名は龍影(りゅうえい)。
琴音が龍影と出会った日は、五日前という過去になっていた。
あの日から、琴音は何故か毎日龍影の家に通っていた。
何か特別な事をするわけでもなかったが、琴音にとっては楽しい時間なのだ。
しかし崩れるはあっという間だった。
いや……琴音は分かっていたのかもしれない。
未の刻
縁側で刀の手入れをしていた龍影に、何時もの声を飛んできた。
「龍影さん!!」
龍影が声のした方に目を遣れば、目に映ったのは何時もの光景ではなかった。
琴音の他にも、三人の人間がいたのだ。
其れを目にして理解した途端、心の隅で泣いている少年がいた。
「あたしがお世話になっている人達なの。悠助に勒七に綾菜ちゃん」
其々簡単に挨拶するが、龍影は名を言っただけで刀の手入れを再開させた。
不穏な空気に、誰も口が開けない中、其れを破ったのは勒七だった。
「流石に人斬りの刀は、切れ味が良さそうだねえ」
丸で挨拶の様に軽く放り投げられた言葉に、空気が一気に凍った。
龍影は楽しげに苛立ちを投げ付けた。
そして同時に、泣いていた少年を心から追い出す。
「面白い冗談だな」
「逃げるのかい?」
間髪容れずに言われた言葉に、龍影はじっと勒七を見詰めた後、くつくつと笑い出した。
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