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暖かい日差しが江戸を見守る中、悠助達の家には、一人の客人が来ていた。
「外で一晩過ごしたのかい?」
「そうなの。変な人には会うし……散々だったわ」
そう言って溜息をついたのは、昨夜死ぬ思いをした琴音だ。
悠助達と出会った頃は、追剥を当然のようにしていたが、あれから考えを改め、こうして報告を兼ねて会いに来たというわけだ。
「変な人って?」
お茶を出しながら綾菜が尋ねれば、琴音は昨夜のことを詳しく話した。其れを聞いた三人は思わず絶句した。
何せ“変な人”について、僅かではあるものの、知識を持っているからだ。
はっきり言ってしまえば、江戸の人間ならば子供でも知っている。
しかしそんな知識を持っていない琴音は、三人を見て首を傾げた。
「どうかしたの?」
悠助は無言で一枚の瓦版を渡した。
“倉敷蒼馬(くらしきそうま)殺害”
倉敷蒼馬といえば、浅間健造と同じく幕府の役人だが……何故これを渡されたのかが分からず、琴音は再び首を傾げた。
「江戸には有名な人斬りがいる。其の内の一人が“修羅”と呼ばれる男だ。狐面をつけ、陰陽師のような格好をしている」
淡々と言葉を生みだす悠助。
其の正面に座る琴音の顔からは、見る見る血の気が失せていく。
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