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「これ、やる!」
光が俺に1枚のCDを差し出す。
「どーも。」
「きけよ、絶対。
3曲とも作詞全部、俺」
光の率いるバンド、"LETTER"の新曲らしい。
「きくよ。杏奈は?」
「杏奈は今やっことお出かけ中。」
「妊婦をほっといていいの?」
「やっこに任せてんのー。」
杏奈は現在妊娠4ヶ月。
お腹の出具合もまだそこそこだ。
「それ何だよ?」
「お得意の勘でどーぞ」
「大学のレポート!!」
お見事、と言いながらパソコンの電源を落とす。
「アキ大学頑張ってんな~。
前のお前だったら絶対やめてんだろ?」
「うーん。
ちょっとね。」
「ちょっとって何」
「うん、ちょっと。」
「おい…」
その時、光の携帯が鳴った。
「杏奈、迎えに行くわ。」
「ん」
「ちょっとって何か聞かせろよ」
「……」
「黙んなっ!」
はは、と俺が笑うと光はどすどすと玄関へ向かった。
「またなー」
後ろ姿を見送り、俺はベッドに寝転ぶ。
真央が死んで半年。
俺は住んでいたマンションを出て、通っていた大学の近くのマンションに引っ越した。
"ちょっとって何"
大学にきちんと通っている理由。
彼女が夢に出てくる度、思う。
医者に、なりたい。
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