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「ちゃんと話してあげて下さいよ。
…一応、頑張ってるのに」
まあ、さっきのは風紀隊としての頑張りというか、ただのじゃれだけど。
「実白はわかっているよ」
「え」
「きっとね」
「あ、俺、行くわ。バイト」
「要、バイト後楽園だっけ?」
「ん、百貨店の上の寿司屋」
「送る。」
彼女ん家、後楽園駅前。
と言って柳がニコーッ、と笑う。
「でもバイクだろ?
俺ノーヘル?」
「ありさの分、常にひっかけてるから大丈夫」
「さんきゅー、さっすが」
「教授、アキ、またな!」
またなー、と、2人が出ていき、俺と教授だけになった。
「…綾野さんが、わかってるって」
「ああ」
「何を、ですか」
「何を、だよ」
何でこの人はいっつも、ぼかしてばっかなんだ!!
「教授!」
「倉田君は」
「何ですか!」
「実白のことをそう呼ぶのか」
俺は、えっ、となって眉間に寄せたシワを思わずのばした。
教授。
さっき俺、そのこと考えてました。
「なんだか、似合わないね」
教授は深い深いシワを目尻にためて。
「"実白"、という感じだね」
「………っ」
何だか、恥ずかしくて恥ずかしくて。
顔に熱が上ってきて。
手足の血が一周したと思ったら心臓の音がでっかくて、でっかくて。
何だ、これ?
「も、今日は帰ります。
…講義のことで聞きたいこと、あったけど」
「今、聞きますよ」
「いいです。また明日聞きます。」
「そうですか」
また明日。
と言う教授に、目も合わさず頭を下げるだけにして部屋を出た自分に。
…何急いでんだ、俺。
なんて、馬鹿みたいに思った。
窓から外を見下ろすと、ちょうど柳と要がバイクに乗って出ていくところで、
止まったかと思うと、そこには、
彼女がいた。
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