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バイクに跨がる2人が何かを言うと、彼女は笑い、真っ赤になって怒り、
また、笑った。
「!」
窓越しに、目が、合った、気がした。
気が、したら、
彼女は手をふった。
俺は、気付いていないふりを、した。
「あっ倉田だぁ♪」
階段を降りると、丁度踊り場でかち合った人に声をかけられた。
誰かと思えば。
「ども」
1つ上の、レイラ先輩。
バイト先が一緒。
「なんでまだいんのー?」
「友達と会議」
「何ーそれー」
「まあ、色々」
「ふぅん」
先輩が、胸元に手をあてて、くっついてくる。
「あったかーい」
「…」
視線の真先にあるレイラ先輩の頭から、かいだことのある匂いがした。
「先輩、プールでも入りましたか」
そうだ、これ、塩素だ。
あの独特の、水くさいような、薬品のような。
「えっ、なんでわかったの!?」
こっちも
えっ、本当にですか、なんて思いながら、
まさか頭が塩素臭いとも言えず。
「髪、少し濡れてます。
プールなんて、いつ入ったんですか?」
「お昼前かな?
今日受ける講義、午前と午後2つだけだったからねー」
ん?
と思った。
「先輩、プールって」
「この大学ねー、2号館の地下にプールあるよ。
もしかして知らなかった?」
…まじで?
「こんな、ちっぽけな設備と広さのくせして」
「ねー!
何でプールなんだってね。
土日以外は、毎日水入ってるよー。
しかも小俣教授の管理下だから、皆服着て入ったりもうはちゃめちゃー」
「ふーん」
「水、小俣教授、自腹らしいよー」
…どんなんだ、それ。
レイラ先輩はバイト先の愚痴をぺらぺら喋り、かかってきたらしい電話をとると、ごめんね、と手をふり階段を上っていった。
俺も帰ろうと思い踏み出した瞬間。
「もしもし?」
"今日、泊めてくれ"
「無理」
"おい!!
………あー!!切るな!!切らないで"
「何だよ、どうしたの」
光だった。
杏奈と喧嘩したらしく。
「どーにかしろよ、馬鹿」
"あいつとの喧嘩は1日おいた方がいーんだって!!"
「子供いる妻をほったらかしか」
"やっこの家いっちまった"
「関係ねーよ」
携帯の電源を落とす。
多分、光は家に来るだろう。
…つーかもういるかも。
ちょっと待たせてやろう、と、少しの興味本位で。
俺は、2号館の地下へ向かった。
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