曖昧

8/10
前へ
/54ページ
次へ
「終わってる」 2号館の地下へ続く階段を探し、下りると "本日の営業は終了致しました" という看板が置いてあり、おもちゃのような鎖で道が封鎖されていた。 封鎖といっても足で跨げるような、あまり意味のない鎖で。 俺は、銭湯の脱衣場のような奥へ足を踏み入れ、またまた風呂場のような磨りガラスの扉を開けた。 もう閉館のはずなのに、誰か泳いでいる。 その誰かは、顔を出して背泳ぎの姿勢でばた足だけで進んでいた。 俺に気付いたらしく、一旦潜り、水面から顔を出すと。 「…う、お」 思わず、逃げようかと思った。 「えっ、アキ? …どーしたんだ?」 さっき無視した、彼女がいたのだから。 「泳ぎにきたのか?」 「や…違う…、!!!!」 プールからあがりこちらに向かってくる彼女の姿に、愕然とする。 彼女の、あられもない姿に。 「何でさっき無視したんだ?」 「ちょっ………!!!!」 「ま、いーや」 黒いキャミソールに、下は…完全なる下着だ。 「おらおらおらおらおらあ!!!」 「う!!?」 ドッ…ボーン… 「…ぶはっ!!!はっ………はあっ!! いきなり何すんだ!!」 「あはははは」 「…水あったけー」 「だろ?」 何でこんなことになったんだか。 ポケットの感触に、背中がひやりとする。 「……ケータイ!!!!!」 俺がそう叫ぶと彼女は、 「あ…。 …………………ごめんちゃい。」 テヘ、という感じで。 そう言った。
/54ページ

最初のコメントを投稿しよう!

230人が本棚に入れています
本棚に追加