ほっぺ

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西日の差し始めたホームで咲子はいつもよりも気丈な顔つきで眼前にある木蓮の枝を見つめながら電車の来るのを待っていた。性格的に知り合いに声をかけられるのが苦手なわけではないが、今は誰とも話したくない。そんな気持ちで自分なりに‘人払いオーラ’を出してるつもりでいた。と、同時に普段出さないオーラを出さなきゃならなくなった原因を思い出してもいた。左手首の内側でいつでも冷静な時計に目をやる。 「…午後5時37分…ほんの30分ちょい前のことなんだ…」 唇の先ですぐかきけされてしまうように呟いた。同時に左のほっぺに指先で触れてみる。今触れてる指先とは違うもっと柔らかい感触がせっせと記憶に保管されつつあった。 「柔らかかったな」 さっきよりは少しだけトーンを上げ、自分の耳に届かせるようにした。もう落ち着いてきた。
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