第一章ー京へー

2/4
前へ
/12ページ
次へ
「勿体無いわ」 ぽつりと、つねさんがそんなことを漏らす。 もう日課になってしまった瓊の相手をしている最中に、突然言われた言葉だった。 え?と聞き返せば、彼女はあたしのすぐ後ろに座り込み その細くて綺麗な指先で、もうすっかり短くなってしまった髪を梳く。 「折角の綺麗な髪だったのに、切っちゃうなんて」 「土方さんに、覚悟見せろって言われたんで」 へへ、と毛先を指先で弄りながら笑ってみせると、つねさんは優しく微笑み返してくれた。 あれからあたしは、一くんに髪を切ってくれと頼んだ。 いつも無表情な彼が目を見開いたのだから、余程驚いたのだろう。 小さな頃から、ずっと大切に伸ばしてきた自慢の髪。 そのことを知っていたから尚更だろうか、彼は何度も本当にいいのかと尋ねてきた。 それが可笑しくて小さく笑ってしまったことは、勿論一くんには内緒だ。 はらはらと地面に落ちていく髪を見つめながら、何度制止の言葉が出掛かったか分からない。 その度に、土方さんのあの"覚悟"という言葉があたしをぐっと耐えさせた。 これが、あたしの"覚悟"なんだから。 短くなった髪を皆に見せに行くと、反応は様々だった。 山南さんと総司は似合っていると笑顔で言ってくれて、 新さん、左之さん、平助には男みたいだと大笑いをされた。 ので、一くんが気にかけてほんの少し女の子らしく切り直してくれた。 その光景を目にして失恋でもしたのかと、誰よりも心配してくれたのは近藤さんだった。 そして、土方さんはといえば。
/12ページ

最初のコメントを投稿しよう!

13人が本棚に入れています
本棚に追加