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「珠希」
名前を呼ばれて、瓊(たま)を抱きかかえながら後ろを振り向く。
すると、部屋の入り口に何やら神妙な表情をした土方さんが立っていた。
ただでさえ難しい顔がいつもより更に難しくなっている。
何か、嫌なことでもあったんだろうか。
「何かあったんですか…?」
「いいから。ちょっと来い」
土方さんが理由も言わずに誰かを呼び出すなんて珍しい。
膝の上に座る瓊と目を見合わせ、頭の上に疑問符を浮かべる。
紹介が遅れたが瓊というのは我が師匠、近藤勇さんの一人娘である。
歳はもうすぐで四つになる。
あたしにとっては本当の妹のような存在だ。
そろそろ痺れを切らしそうな彼を見かねて、瓊を膝から下ろし此処で待っておくように言う。
頭の良い瓊は、愚図りもせず素直に頷いた。
「いい子だ」
透き通るような黒髪を撫で、畳から立ち上がる。
心地良さそうに目を細める瓊に、頬が緩んだ。
そして静かに襖を閉め、大人しく土方さんの後をついて歩いた。
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