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連れて来られたのは母屋の居間で、そこには既に見覚えのある門下生ばかりがそろっていた。
土方さんの難しい表情とは対照的に、皆はいつもと変わらない様子だった。
あたしが居間に足を踏み入れた瞬間、ひらひらと手を振る幼なじみの姿が視界に入る。
奥の方に居る彼の元まで駆けていき、隣に腰を下ろす。
「おはよう、総司」
「うん、おはよ」
にこりと優しく微笑む総司に、あたしも微笑み返す。
今日も寒いね、なんて他愛もない会話をしていると、ふとあることに気が付く。
「近藤さんは?」
「もうすぐ来ると思うよ。今は奥で平助と話してるみたい」
「平助…と、」
久しぶりに聞いた名前に、思わず眉間に力が入る。
平助というのは、一応この道場の門下生の男だ。
何故"一応"なのかというと、稽古に来る日より来ない日の方が圧倒的に多いから。
たまに道場に顔を見せたかと思えば、ふらりとすぐ何処かに消えてしまう。
道場に来ていない間は何をしてるのか誰も知らないけれど、きっとあの持ち前の顔を生かして遊廓で女でも口説いているのだろう。
あの人を小馬鹿にするような態度、裏表の激しさ、口の悪さ。
「あいつにいい所ってあるのかな…」
「珠希、声に出てる」
総司に言われて口に手を当てたのと同時に、後ろから豪快な笑い声。
吃驚して後ろを見やると、そこには大笑いする新さんと左之さんがいた。
新さんと左之さんは、あたしにとっては兄のような存在。
がっしりとした身体とは裏腹に子供っぽい新さんと、口は悪いけど優しくて大人な左之さん。
この二人が親友同士なのだというのだから、人間というものは実に不思議な生き物だとつくづく思わされる。
一頻り笑った後、左之さんは涙を拭いながらあたしに話しかける。
「珠希、お前よっぽど平助が嫌いなんだな」
「嫌いっていうか…気に食わないだけ」
「どこが?」
「顔。」
その一言にまた笑い出した二人と、総司。
この三人は一回つぼに入るとなかなか止まないんだよな…
はあ、と溜め息を吐いたのと同時に居間の襖が開かれる。
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