夏のある日

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「花火大会が始まるまでに帰ってこれるかな」  岩井海水浴場からほど近い岩井駅で電車待ちをしている峰澤洋一はぼんやりと呟いた。  駅からは到底見ることのできない岩井海岸の方向と行き交う車を見やりながら額の汗を拭う。  現在同市の高校で教諭を勤めている彼は、夏休みの期間でも出勤しなければならない時がしばしばある。事務仕事のみで一日が終わることもあるし、部活動の顧問を請け負っている彼は一日中部員の相手をすることもある。  彼の年齢はもう三十を越えている。まだ若いからと、部活動で無茶をすることが多々あった。その都度部員に心配されたが本人はあまり気にしていない。  髪の毛には既に白髪が混じっていた。そのくせどこか垢抜けない言動が度々見受けられ、そのギャップのためか生徒にはそこそこの人気があった。  既に結婚して家庭を持っている彼は仕事柄、家族と過ごす時間が少ないことを偶にだが恨めしく思った。
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