古傷

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「そりゃ……」  言いかけて、反論する言葉も思い浮かばないまま口ごもる私を尻目に 「だいたいね」  里子は、やれやれとでも言う様に私の顔をチラリと見遣ると 「あんな一等地で、学生ワンルーム並みの家賃なんて、どんなのよ?絶対、裏があるとおもった」  そう言いながらツルリとパスタを一口頬張った。  そう思ったなら、もっと真剣に止めてよ…  と言う言葉が、思わず口を突きそうになるのをグッと水で押し流しながら 「だって……引っ越したかったんだもん…」 とにかく 一刻も早く…  私は、そう言うと、視線を冷め始めたパスタの皿に移しつつ、両手にグッと力を込めていた。 .
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