黒い飲み物

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 貿易都市マルクは、ウル大陸南部の『内海』と呼ばれる大陸で最大の面積を誇る淡水湖と、東海岸に面する豊かなバラリア海双方に面した交易の要所である。  白レンガで造られた美しい街並みのど真ん中を巨大な運河が貫き、街中にも大小様々な水路が、まるで蜘蛛の巣のように張り巡らされている。  故に交通手段は専らゴンドラと呼ばれる小型船だ。それぞれのゴンドラには決められたルートがあり、人々はそれを乗り継いで目的地に向かうのだ。  ……というのは、海に面した南部と中央の運河周りの事。  都市をぐるりと囲む城壁付近には、水路は通っていなかった。  衛兵、ジョージ=アレクセントが住む衛兵用集合住宅も、陸路の玄関である西門付近にある。当然町外れであり、水路まで歩いて20分はかかる。  その水路までの道のりを、ジョージは滅多に着ることの無い礼服を着て歩いていた。  眩しい程の白に、青い糸の刺繍が袖や襟を飾った、ジョージの一張羅だ。衛兵に配属された時に支給された物で、ジョージがこれを着るのは2度目。  新兵の出陣式以来、5年間1度も触らなかった代物だった。  いつもはラフなシャツとパンツだけで出歩くジョージは、幾分緊張しているようだった。  それも無理からぬ話。彼が向かっている先は、この都市で2番目に権力があり、最も壮麗な建物。  『水宮』なのだから。
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