黒い飲み物

9/24
前へ
/209ページ
次へ
 ジョージが上機嫌に貿易都市マルクの建物や歴史について語っていると、ゴンドラが緩やかにスピードを落とした。 「ほら、あんたが向かってる水宮だ。立派なもんだろう?」  船頭が指し示した先には、巨大商船が丸ごと入るような入り口を備えた巨大な問と、それを丸ごと飲み込む神殿がそびえ立っていた。 「ひゃぁぁぁぁ……」  砂漠の女は呆然とそれを見上げた。首都の城と同等の高さがある。  数万人が常に中で動き回っていると言われる巨大建築だ。  水精霊の手伝いで鋭利に削られ、磨かれた外壁と無数の彫刻は、太陽の光を受けて乱反射していた。  神殿というと厳ついイメージがあるが、水宮はその美しさの割には親しみ易い淡い色合いだ。素材はほとんどが雲母でできている。 「そんなに緊張するこたないさ。神官達は皆新設だからな」  と言いながら、ジョージは年上の幼なじみを思い出していた。  勝ち気な性格で、人の役に立つのが大好きな、一言で言えばお節介焼きの。そいつが今、水宮で神官をやっているのだ。  ゴンドラは、ゆっくりと参拝者用の水路に吸い込まれていった。
/209ページ

最初のコメントを投稿しよう!

94人が本棚に入れています
本棚に追加