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「誰がばあさんだい。あたしゃまだ45だよ」
怒りながらも、野次馬連中を見てただ事じゃない雰囲気を感じ取ったのか、シチューの入った器を片手に駆け足で厨房から出てきた。
「行き倒れなんだ。まだ息がある」
「行き倒れなら、まずは水じゃねえのか?」
「水ぶっかけてやれば元気になるだろ。水汲んできてやろうか?」
「お前の足じゃ日が暮れるわ。俺が行ってくる」
野次馬共が口々に好きな事を言う。そうか、水か。まずは水場に連れてってやれば良かったのか?
軽く焦った。
「馬鹿言うんじゃないよ!渇いた奴に水かけたら、びっくりして死んじまうよ。ちょっと、そこの馬面。あんたの水と、そこの台拭きよこしな」
料理婦に言われて、馬面と言われた奴は慌てて自分のコップと台拭きを渡した。
料理婦は手早く台拭きにコップの水をぶっかけると、ガキの口元に当てた。
そして、少しずつ台拭きを持つ手に力を込めていった。
「おいおい、何も台拭きなんざ使わなくてもいいんじゃないか?」
「うるさいね。馬鹿は黙ってな」
怒鳴りもせず、料理婦はぴしりと野次馬を黙らせた。
沈黙が緊張を生み出す。その場にいた全員が、息を飲んでガキの様子を見守った。
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