第一章 涅槃の使者.

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ここに月明かり以外は何も無い。   「ハァ…ハァ、どうして、ここにはないと……ッ」   「おや。神官さん。」   暗闇からの声は狩人の誘い。   「何を焦っておいでです?」   「ッ!!!だ、誰だッ!!」   「クス、誰って……ねぇ…。」     月に影が伸びる。 神官の背後で高く。     「―Chaice.」 ザンッ!!     コテン、コテン…     「排斥完了。」   相も変わらず、相方であるレイは楽しそうだ。 クェイも最初は戸惑いさえ見せたが今は慣れつつあった。     「ちぇッ、血着いちまった。」   今回ばかりは囮役だったレイが苛立ち気味に呟いた。   神官にあまりよい思い出は無いのだと、珍しくこの男が嫌がったから殺す方を受け持ったのだが。   いつもはこちらが血まみれなんだ、とクェイは思う。 すると、すぐににょきりと悪戯心が生えてきた。 こいつは口では俺に勝てまい。 クェイは微かに笑んだ。     「舐めたら?」   「舐めるかーッッ!!!!!」   「冗談だってば。」   「俺はさっきからお前への疑問が浮かぶばっかりなんだが…。」   「大丈夫。俺もだから。」   そういうクェイをレイは横目で睨みながら、ポケットの中に偶然あったティッシュで服を乱雑に拭る。  クェイは小型ナイフに付着した血を丁寧に拭き取った。     「ッし!!帰るか。」   「早く風呂入らないとなー。」   「あぁ、もう血でベトベトだ…気持ち悪。」   「(たまにはいいんじゃないか?)」     夜は深く、梟の声がした。  
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