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季節は、冬
年末に向けてのこの時期は、恋人達にとっては重要なイベントが多い
まぁ、一人身の俺にとっては少しも関係は無いのだが
「しーきぃぃぃー―……」
「うぉっ」
月曜日の最悪な時間割と、また一週間が始まるという憂鬱プラス朝の眠たさという最悪の組み合わせと闘っていたところに、俺以上にテンションの低い声が俺の名前を呼んだ
でもコイツの元気のない原因は間違いなく他の事だろう
「マチとケンカしたぁー……」
俺の頭を抱え込むように抱き着かれた腕を片方ずつ外しながら気の無い返事を返した
「へー……」
そんな事言われたって、俺は
悲しめばいいのか、喜べばいいのかが分からない
コイツは今日も俺の心を掻き乱し、困らせる
コイツこと小牧優也(コマキユウヤ)はクラスメイトであり、友達であり、俺の好きな奴でもある
初めて話した内容とか、友達になったきっかけとかはもう忘れてしまったけど
俺の心の大部分は小牧が占めていたのに気づいたのはそんなに最近の事ではない
「それでさー、オレがいつもみたいに待ち合わせ場所で待ってて。でもマチいっつも遅れてくんだよねー…。だから心配だし遅れるトキはレンラクしてって言ったのになんか急に……」
朝、教室に来て早々彼女の事で悩み込む小牧を昼休みに聞いてやるからと適当にあしらいホームルームが始まる直前に席に着かせた俺に、午前の授業が終わった途端朝のツケが回ってきた
付き合い始めて確か2、3ヶ月程経ったと言っていただろうか
『マチ』と呼ばれている小牧の初めての恋人は、それが苗字なのか名前なのか、愛称なのかといった事柄は分からない
向こうは『優くん』と言っているとか
お互い学校が違うらしく、俺が知っているのは小牧と同学年で、小牧の一目惚れで、小牧から告白した事だけで
話を聞くだけで一度も会ってはいない
彼女ができた事を聞いた時、正直「助かった」と思った
これで小牧は彼女のモノだ
俺はただの友達なんだ、と
俺の気持ちを抑える枷(カセ)に、『彼女』という存在は十分過ぎる程の役目を果たしてくれていた
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