序章 悲しみの朝

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 セシリア・オードは、窓から射し込む朝日で眼を醒ました。普段通りの起床。同じ時間。上半身を起こして、うーんと背伸びをするのも一緒だった。  寝巻きのまま、自室を出る。  二階建ての我が家。必要最低限の家具しか置いていない簡素な建物。眼を瞑ってでも移動できる。  セシリアは一階のリビングに降りていくと、そこには既に先客がいた。肉親。父親のガイル・オードが、優雅に朝のティータイムを楽しんでいる。 「おはよう、セシリア」 「おはよう、お父さん。相変わらず朝起きるの早いよね」 「もう癖になっているんだよ。私としては良いことだと思うんだが、やはり年のせいなのかな」 「お父さんはまだまだ若いよ。友達だって、十五の娘がいるとは思えないぐらい若いって話してるし」  気兼ね無く行われる父と娘の会話。リビングに置かれた椅子に腰掛けた。  テーブルを挟んで、父親がいる。  短く刈り込まれた銀髪。筋骨隆々といった体型ではなく、無駄な筋肉や脂肪を排除された身体をしている。  そして、最もガイル・オードを際立たせているモノは左目と左腕だ。そこには何も無い。隻眼隻腕。左目は堅く閉じられ、左腕が在るべき場所には何も存在しない。  セシリアに物心着いた時から、ガイルは隻眼隻腕の状態だった。一度訊いたことがあるのだが、昔、皆を護るために差し出したんだと言っていたけれど、子供だったセシリアには良く解らなかったのが本音である。
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