序章 悲しみの朝

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「ハハハ、お世辞の上手な子だね」 「でも、私だってお父さんは若いと思うよ。シワとかも無いし、ていうか歳取っているの?」 「当たり前だよ。私だって人間さ。歳も取るし、死にもする。セシリアと同じ、人間だよ」  ガイルは若い。少なくとも、三十代には到底見えない。何もこれは身内の贔屓目での感想ではなくて、誰しもが思うのである。  一体、いくつなのだろうかと。 「……ねぇ、お父さん」 「何だい?」 「アベルは、元気かな?」  口から溢れ出たのは、一週間前まで王都フレンツェルにいた男の子の名前だった。  セシリアの幼馴染み。  誰とも変えることのできない片想いの相手。 「さぁ。ただアベルは人付き合いが苦手だからね。友達が出来さえすれば、武芸学校も楽しいだろう。元々、アベルは文学校に通うべき人間じゃなかったからな」  ガイルの言葉に、セシリアは頷くことも首を振ることもしなかった。  無反応を怪訝に思ったのか、父親が紅茶の入ったカップをテーブルに置いて、問いかける。 「アベルが心配かい、セシリア」 「もちろんだよ! だって、アベルはずっと文学校でも虐められてたんだよ!? そのときは私がいたけど、武芸学校はリザリアにある……。私が、助けてあげることができないもの」 「……仕方無いさ。ユンフェミア皇女殿下の護衛任務。適任は、アベルだったからね。あらゆる面に於いて」
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