46140人が本棚に入れています
本棚に追加
世界最大の帝政国家。コウゼス帝国の第一皇女。彼女を三年間護衛するために、ギルド最強と謳われる三剣の一人がわざわざ王都を離れた。
「……私は、行って欲しくなかったよ」
「アベルが承諾して、セシリアも了承しただろう?」
「だってそれは……!」
我が儘な女の子だと思われたくなったから。自己中心的な人間だと認識されたくなったから。
本当は反対したかった。
だけど、セシリアも心の底では気付いていた。
ガレーディア公国首都リザリアに赴くことが、きっと彼にとって有意義な物になると。
「……私、着替えてくるね」
「ああ。学校に遅れちゃいけないよ」
リビングを後にする。その際、眼に止まったのは壁に掛けてある一本の刀。アベルの真の得物だ。
――どうして、それを持っていかなかったんだろう……。
封印されている刀を眺めながら、セシリアは遠い異国の地へいる幼馴染みを想う。
誰よりも優しくて、誰よりもセシリアを大事にしてくれて、誰よりも長く一緒に過ごした大切な人。
だけど、セシリアはあと三年間アベルに会えない。その間で、彼に大切な人が出来ていたらどうしよう。
耐えられるかどうか、セシリア自身解らなかった。
――大丈夫、アベルのことだもの。
そうやって己を励まし、セシリアは絶えず身に付けているお守りを握った。
出立直前、彼が渡してくれた物だ。
「アベル……」
呟かれた声は次第に目覚めていく街の中に溢れ、喧騒の中に消えていった。
最初のコメントを投稿しよう!