序章 悲しみの朝

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 世界最大の帝政国家。コウゼス帝国の第一皇女。彼女を三年間護衛するために、ギルド最強と謳われる三剣の一人がわざわざ王都を離れた。 「……私は、行って欲しくなかったよ」 「アベルが承諾して、セシリアも了承しただろう?」 「だってそれは……!」  我が儘な女の子だと思われたくなったから。自己中心的な人間だと認識されたくなったから。  本当は反対したかった。  だけど、セシリアも心の底では気付いていた。  ガレーディア公国首都リザリアに赴くことが、きっと彼にとって有意義な物になると。 「……私、着替えてくるね」 「ああ。学校に遅れちゃいけないよ」  リビングを後にする。その際、眼に止まったのは壁に掛けてある一本の刀。アベルの真の得物だ。  ――どうして、それを持っていかなかったんだろう……。  封印されている刀を眺めながら、セシリアは遠い異国の地へいる幼馴染みを想う。  誰よりも優しくて、誰よりもセシリアを大事にしてくれて、誰よりも長く一緒に過ごした大切な人。  だけど、セシリアはあと三年間アベルに会えない。その間で、彼に大切な人が出来ていたらどうしよう。  耐えられるかどうか、セシリア自身解らなかった。  ――大丈夫、アベルのことだもの。  そうやって己を励まし、セシリアは絶えず身に付けているお守りを握った。  出立直前、彼が渡してくれた物だ。 「アベル……」  呟かれた声は次第に目覚めていく街の中に溢れ、喧騒の中に消えていった。  
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