猫の王

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駅のホームで電車を待っていると、 「ねえ、Yさん」 と声をかけられた。 見るとバイト先の同僚の男だった。 同僚と言ってもほとんど会話をしたこともない。 彼は気まぐれな所があるらしく、 何の連絡もせず会社をサボることがたまにあった。 そのくせ、 明くる日には涼しい顔で仕事をしているのだった。 私もちょくちょくサボる方だったので、 同じバイト先にそんな彼がいてくれることは、 気が楽だった。 私達は、会話はしないが、気が合う関係だった。 そんな彼が、 私に声をかけたのは少し以外だった。 「ああ・・・」 と答えた私の顔を見た彼は、 ニタッと笑った。 人懐こそうな笑顔だった。 電車がホームに滑り込んできた。 私達は同じ車両に乗り込んだ。 電車が走り出すと、 しばらくの間、 彼は私の存在を忘れたかのように、 地下鉄の窓の外を流れていくライトを必死に目で追っていた。 彼の丸い瞳はクルクルと小刻みに動いた。 その様子は、 何かに取りつかれているように見えなくもなかった。 ふと思いついたように彼が言った。 「今日、家に来ませんか?人を誘うのははじめてなんだけど」 それは、とても唐突だったが、 私は何となく、頷いていた。
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