世紀末宇宙遊泳

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 宇宙は哲学的には時間・空間内に存在する事物の全体として捉えられている。  私がそんな万物に値する宇宙という神の腕の中に一人で包まれているのを知っているのは、今や豆粒ほど小さく遠くなった地球上には僅かしかいない。  膨張する太陽を抑えるためにビル一棟ほどの大きさの核を運び、太陽を縮小させる任務なんてのが朝からニュースで流れたら、会社員も会社に行くに行けなくなるだろう。  地球の危機を救うヒーローなんてのは実際寂しいものだ。  誰にも知られないヒーローがAI(人工知能)と共に万物の海を泳いでる。  そんな皮肉を考えてる私は、この旅にそれほどの苦痛を感じていない。 人類のため、家族のためであることを考慮すれば気が安らぐのだ。 それに会話相手ならAIがいる。立派にビビという名前もつけられたそれは、それこそ人間が神が誕生してから2363年の間にかき集めた知識全てを活用した合理的な会話しか出来ないが、宇宙をさ迷う一人の人間としてそれだけでもどれほど助かることだろう。 「……四十年前に終戦した、あの」 「ポリネシア戦争」 透き通り、少しヴォコーダーを通したような女性の声のビビの発言は、常に的確で会話の流れが苦にならない。 「そう、ポリネシア戦争。私の祖父が兵士として行ってるんだ。あの時代はガンマ線の銃が主流でね、それはもう悲惨だったらしいんだ」 「ポリネシア戦争では日本は中立的な立場でしたね。しかしあの戦争での戦死者数は主に兵を出していたアメリカよりも、中立的な立場であった日本のほうが多かったようです」 「……国防省の資料ではアメリカのほうが多かったよ?」 「資料は資料でしかありません。戦争の重みは資料だけでは背負えません」
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