世紀末宇宙遊泳

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 ビビにはある意味余計な知識も搭載されているようで、楽しくてしょうがない。 「そうなのか。アメリカがおっ始めた戦争なのにな」 「国家間に亀裂を作らぬための偽装です。騨(ダン)も良い嘘はつきます」  ビビは私に問うことはない。全てを断言する。  ビビの中にある確固たる知識はいまの人類がもつものであり、いうなればビビは万物、全てを知るゼウスでもある。  しかしそれは所詮、人類的な万物であり、それこそ万物というには危ういものである。 「……その通り」  人間は天文やら真理、万物のことなどを考えると、人間である自分がどれほどチッポケで事足りない存在かを思い知らされる。  そうなると気がめいり、私が操縦席をたち、無重力に身を委ね始めるのも致し方ないことなのだ。  この一千人は収容できるであろう流線型のシャトルに一人でいるという状況が、また私を追い詰める。  平常心を保てていた船旅も、宇宙を相手にした天文学者ともなれば私の機嫌メーターも一気に下がってしまうのだ。  「たった今、地球を発って三十七日が経ちました」  このビビの時報を聞く度に、私が自分を称賛するようになったのは二十三日目からのことである。この船旅が苦ではないことは確かだが、いつか苦になることは避けられない。 このような小さな事でも私の支えになるなら、私は自発的にそれに励みたい。 こうゆう風に習慣を作ることが、私の今の習慣である。  例えば、食事を終えたあとには必ずコーヒーをすすりながらビビとチェスをするのだ。 3Dホログラフィーによるチェスは、敗北へと近づきつつある私の低い声の指示の通りに動く。  更に医療データ搭載のアンドロイドの点検もだ。全くといっていいほど男性の人間に模して製造されたそれの手は、我々人間以上に巧みに動く手をしている。 ハリウッド俳優のジャクリーン・オズワードに似ているそれは、妙に威圧感のあるアンドロイドだ。
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