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彼は焦っていた。時々ちらちらと壁に張り付いている時計を睨みつつ。
しかしどんなに睨み付けようとも、時間は彼の都合などお構い無しである。
(ちくしょ~、終わらないっ!)
今日は平日。勿論夏休みでも冬休みでもない。
それでもって彼は高校生。
まさに危機的状況であった。
そんな彼の焦燥を虚仮にするかのように、
「ぴんぽんぱんぽ~ん」
壁のスピーカーが、気の抜けたメロディを響かせた。
「やっほー、蘇芳く~ん🎵」
暢気な声である。
「おはよ~。どう?俺のエボリーヌ達は元気に育ってるかい?」
ふぁ、とスピーカーから気だるい欠伸の音が漏れる。
それが、ますます蘇芳の神経を逆撫でした。
「立派に増殖しとるわ!飼育係が優秀だからな。気になるなら、とっとと俺と交代しやがれ!」
「御無体な。昨夜川上さんが切迫流産しかかったもんだから、何だかんだで寝たの明け方だもん」
「知っとるわ!昨日人が気持ち良く寝てるとこを叩き起こして、容赦なくこき使ったのはどこのどいつだっ!」
ちっ、と言う呟きを、お利口さんなスピーカーがしっかり拾った。
「ちっ、じゃないだろ!川上さんの容態が落ち着いたとたん『俺もう限界~っ』とか言って、さっさと寝た癖に」
残された蘇芳は一人寂しく後片付けをしたのである。
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