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最初から待つべき者などいないのではないか――ふと、少女の心にそんな疑いが忍び寄る。
不意に、潮を含んだ風が強まってくる。
暖かな陽光は暗雲にさえぎられ、冷気が少女をそこから追い立てるように舞い降りる。
彼方の空では稲光が、雲の腹に複雑な模様を閃かせはじめる。
少し遅れて雷鳴が、飢えた獣のうなり声のごとくとどろく。
風も泣き叫ぶ。
彼女を拒むように。
黒髪にあおられ、少女は不安そうに手のひらを胸に当てる。
指先に触れる硬質な感触。
獅子の指輪――それが彼女のよりどころとなる。
来る。
きっと来る。
そのとき自分を見つけられるように、少女はいつまでも待ちつづけると心に誓う。
彼は存在する。
そして彼女のいる場所を目指している。
なぜならここが約束の地だから。
二人で決めた再会の場所だから……。
突風が花びらを舞い上げ、視界を薄桃色に染める。
美しき嵐の中で、少女はにぎりしめた小さな拳を開く。
包まれていたのは純白に輝く一枚の羽根。
それは少女の想いを乗せて、風に高く運ばれていく。
空の果てへ。
時の狭間へ。
傷つき迷う、待ち人のもとへ――。
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