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男は見たことも無い不気味な光景に体を震わせながらも、廊下を歩き始める。いつもならこのような不気味な場所にはかかわりたくないと思うのだが、男はなぜだかこうしなくてはいけないような気がしたのだ。びくびくしながら歩き続けるが、スマートフォンの明かり程度ではこのような真っ暗な中では全く役に立たない。魑魅魍魎でも飛び出してきそうなこの状況に、ただでさえ怖がりな男は今にも泣き出してしまいそうで、もはや限界を感じはじめていた。30分が経ち、もう走って自分の部屋に逃げようかと考えていた頃、廊下のずっと先に淡い小さなオレンジ色の明かりが見えた。それを見た男はワラにもすがる勢いで駆け出していき、まるで何かから逃げるように明かりを目指した。
段々近づいていき、オレンジ色の光の正体も見えてくる。どうやら障子のようだ。男はやっとどこかの部屋に出られることに安心感を抱きつつ障子を目指し、遂にたどり着いた。息を切らせながら障子を開けると、木製の床で、十畳ほど広さの部屋の中心に古い小さな祠のようなものが建てられていた。祠の周囲には大量の蝋燭が立てられており、それが不気味さに拍車をかけている。
開放されている観音開きの戸、祠の中に置かれている真っ黒な球体、そしてこの場所へきてしまった事。誘導しようとしているような、何かの意図が感じられるようなこの状況に、男は気味の悪さを感じてしまう。しかし、そんな状況であるにもかかわらず男は何かに操られるかのように祠へ近づき、祠の中に置かれている真っ黒な物体を手に取ってしまった。男は彼自身も驚きと戸惑いを隠せぬまま、右手の上に転がっている黒い石を見つめる。
真っ黒である。あまりにも黒すぎて、まるで小さなブラックホールを持っているようだ。「なぜこんな物に近寄ったのだろう」と自分の行動を疑問に思いながら、しげしげとその丸い物体を見つめる。
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