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その後、気が付くとあの祠の部屋にいた。体は無事だ。肌は綺麗で、虫に噛まれたような傷跡は残っていない。どうやら無事生きているようだ。「あの寄生虫はどこへ行ったんだ」と疑問に感じながら溜め息をつくと、息をはくときの声が随分高い事に気がついた。加えて、視力は暗がりでも分かるほど変化し、すぐそばに落ちていた自分の眼鏡をかけるとよく見えるどころかぼやけて見えてしまうレベルまで視力が上がっていた。 それだけではない。髪の毛が長くなり、手、股間、胸等、あらゆる場所に違和感を感じる。着ていた服も大きく、長くなってしまった髪は腰辺りまで伸びている。Yシャツのボタンをはずし、恐る恐る自分の体を見てみると、胸に申し訳程度の膨らみがあった。そして、男性の象徴がなくなっていた。もうここまで状況がそろえば男の体に起きたことが何なのかは確定的だった。性別が変わっているのだ。ここで大きすぎて着られないを服脱ぎ、立ち上がった男はまた違和感を感じた。視線が思ったよりも低く感じるのである。ある程度は予想していたことではあったが、10cm、15cm低くなったなんてレベルではない。もっとずっと低く、30cmは縮んだように感じられる。体のいたるところが変異しておりとても違和感を感じるが、最大の違和感は男自身の振る舞いだった。こんなありえないことが起きているというのに自分でもおかしいと思ってしまう程落ち着き払っている、普通はありえない事である。普段ならもっと慌てるか、絶句するかどっちかだろう。なのに驚くほど落ち着いているのだ。「もしかすると性格まで変異してしまったのではないか」そう考えると少し嫌な気分になる。ここまで変わってしまうと「本当に自分なのか、実は別人なのではないか。自分は自分なのか」そう思うからだ。とはいえ、気にはなるが考え出すときりがなくなり、あまり深く考えてもしかたがないことである。いずれは直面する問題なのだろうが今は生きることを優先せねばならない。今余計なことを考えている暇は無いのだ。 そう考えた元男は余計な考えはひとまず置いておき、男物の下着やジーンズなどもう大きすぎて着られない服はそのまま放置し、ブカブカになってしまったTシャツだけを着ると床に落ちていたタブレットとスマートフォンを持ち、祠の部屋から出た。
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