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障子を開け、廊下に出てみるとまた違う光景が広がっている。相変わらず長い廊下なのは変わらないが、左右の壁が襖へと変わっていた。ひとまず順番に部屋の中を見ていこうと決め、一番左手前の部屋から入っていく。部屋の物を漁り終え、今度は右の部屋へ入る。そこには立派な箪笥と、見るからに高級そうな子供用の着物を見つけた。いくつかあるが、一番近くにあるのは牡丹と手鞠の模様をあしらった黒い生地の着物、となりにあるのは八重桜と鈴の模様の赤い着物だった。貧乏な男には一生縁のない物である。
次に、タブレットを部屋の端に置いて箪笥の中を確認してみると女の子用の服や下着が入っていた。古めかしい服もあるが、今の時代でも着ていておかしくない物もある。てっきりこういった服はないものと思っていた元男の予想に反する結果だ。「これはありがたい」と思った男は早速服を選び始め、最終的に選んだのは白いブラウスに黒いジャンパースカート、赤いリボンのニーソックス、黒いパンプスという以外にも女の子らしい服だった。着慣れたパンツスタイルの服は無いのかと思った元男だが、下の服はスカートのみ、一段下にしまってあったのも女性用の浴衣と普段着用の着物が入っているだけだった。それなら開き直って思いっきり女の子らしい服装にしてしまおうと思った結果、選んだ服だった。元男は同じ箪笥に入っていた不思議と体にぴったりなサイズの下着を選ぶと早速着替え、近くにある大きな鏡の前に立った。目の前には、幽霊を髣髴とさせるような気味の悪い少女が立っていた。少しだけ驚いた男は、胸まで伸びた長い前髪を耳にかける。「顔が見えれば多少は怖くないはずだ」、そう思ったからだ。改めて鏡を見てみる。
艶々の腰まで伸びた黒髪、人形のように白い肌。大きな目と長い睫毛、ほんのりと桃色に染まった頬、鴇色(ときいろ)の唇。鏡には男の予想を超える、まるで作り物が動いているのかと錯覚してしまうほど日本人離れした顔の美しい童女が立っていた。そして童女であるにもかかわらず、その美しさもさることながらどこか面妖な色気を漂わせている。
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