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木造のホームの隣に、造形のように線路上に立っている蒸気機関車がある。
先端にはランプがついている、少し小振りのそれは、黒く物言わぬ重厚な雰囲気で周りを圧倒していた。
そして、その隣には、豊かな黒髪の少年が立っていた。彼は、蒸気機関車の黒い体を指で静かになぞる。
少年の手に、その肌よりもさらに黒い暗闇のような煤が付着する。しかし、彼はそんな手が汚れた事を気にする様子もなく、先頭車両の中へと入っていった。
辺りは朝日が照らしているとはいえ、黒一色の運転室は視界がひどく、段差などの見分けがつかない。
しかし少年は慣れたふうに、暖炉のようにぽっかり空いた空間に、近くに置いてあった鉱石をいくつか放り投げた。
手がさらに煤まみれになるが、彼の表情は一向に変わる様子がない。
やがて暖炉のような場所の地面が、鉱石で見えなくなると、彼は腰につけたポーチからレンチを取り出した。
彼は炉から伸びているパイプの一つ一つをレンチで丁寧に叩いていく。高い音がなったり、低い音が響いたりと、様々な音がする。
そして、一番細い管を叩いた時、彼の表情が初めて変化した。怪訝そうに叩いた箇所を確認した。
そんな時、どこからか人を呼ぶ声が聞こえてきた。その途端に彼の表情がまた、元の抑揚のない音楽のようなものに戻る。
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